むかし、まだ東京で会社員だった頃のはなし。
変に真面目で同時に薄っぺらいという、複雑な性格の上司がいて、
とっても苦手でした(っていうかクソだと思ってた)。
ある日、昼食を…と入った店に偶然そいつが入ってくるではないか。
文庫本を片手に凍りつくわたしを見つけ、
「お、何読んでるの~ん?」と近づいてきやがった。
でもわたしが「金閣寺です」と答えると、
ウッと言葉を失った後、別の席に去っていきました。
三島由紀夫でよかった~。
これがイマドキの小説だったりしたら
うっかり食いつかれて横に座られちゃうところだった。
え~、小噺はさておき本題へ。
三島由紀夫もそうですが、“文豪”の作品にたまに触れると、
よく研ぎ澄まされた刀で辻斬りにあったように、
“鮮やかに斬られる”ことが多々あります
(落語の「胴斬り」みたいに、斬られたことに気付かないことも)。
最近読んだ中では、菊池寛の「入れ札」、志賀直哉の「剃刀」、井伏鱒二の「鯉」。
全部ごくごく短編なのですぐ読めちゃうのですが、余韻がすごい。
文豪の文豪たるゆえんに触れ、「スパッと殺られた~」と
椅子の上でのたうちまわってしまいました。
うっかりすると教科書なんぞに載ってて偉そうに見えるので、
文豪作品を苦手とする人は多いと思いますが、
食わず嫌いなんていわず、読んでみることをおすすめします。
でも鋭いよ、切っ先。覚悟しな。(Ö)