2020-06-03

あをぐみÖの読書日記「皮膚と心」

 いい齢をして「とびひ」に感染。肩から背中にかけて赤黒いテンテンボチボチが踊り、草間彌生さんもびっくりの「水玉脅迫」ぶり。コロナの不穏が、こういうカタチで出てきたか、あーあ。

 こうなったらあれを読むしかない! と思って引っ張り出してきたのが太宰治でありました。その名も「皮膚と心」。皮膚病をわずらっちゃった女性の独白調による短編です。

 まあ、なんと言うか甘い。「おぬし、甘いのう」の「甘い」ではなく、スウィートな甘さです。恋に恋すると同様に、悩みに恋する女性のとめどなく流れる感情の渦。苦悩に淫している感じが甘さを醸します。「皮膚病を患った女」という意味では主人公と同じ立場ですが、まあ、なんと言うかわたしとは十億光年くらいの距離感がある、心理的に。……と一瞬思ったものの、感情の内容はともかく、何か非日常的(ネガティブ)なことに出くわし、くよくよと感情の渦に飲み込まれていくのは、実は同じかもしれない。

 主人公の場合、その感情が「女であることの因果」みたいなところにまでどっぷり堕ちていきます。その極みが、終わりの方で発射される「プロステチウト」発言。でたな、カタカナ一言爆弾。『三四郎』におけるストレイシープ(これも女性(みねこ)の発言ですね)同様、くさびのように心に撃ち込まれる威力のある単語です(意味は。。。調べてみてください)。どんな”おたふくのおばあさん”(主人公、28歳なんですけどね)でも、女は女。醜い皮膚病は、唯一のよすがを奪われる残酷な仕打ち。残った道は堕落か自殺か、というところまで思考が進みます。「健全な体に健全な魂」というけれど、逆も真なり、なのかも。ため息。
 ネガティブに陥る自分を客観的に見せてもらった気がして、正気に戻るきっかけをつかみました。おかげさまで。やはり本は効くなあ。

 ところで、女性の苦悩とは全く別の次元で、今回この短編を身近に思えた発見がひとつ。主人公の夫がデザイナーなんですよ。そうだったっけ? 昔読んだ時にはスルーしてました。とても気に入っていた図案を、まさか自分の夫が手がけていたとは、と気づいたときの女性の描写。このあたりに今回はキュンときました。はは。

 ちなみにこの短編、新潮文庫の短編集『きりぎりす』に収録されています。写真はかつてあをぐみがデザインした「別冊太陽 太宰治」。
ああ、もうすぐ桜桃忌ですね。(ö)


2020-05-11

あをぐみÖの読書日記

COVIC-19のせいで時間ができたのを機に、読書な日々。

もともとこもり気味の生活を送っているため、パンデミック下で様相が大きく変わったりはしてないのですが、漠然とした不自由や重い空気に包まれ、真綿で首を絞められているような今日この頃。
そこで、この本を読んでみた。自分の不安を他人の不安で上塗りしてやろうというわけです。毒を持って毒を制す的な?

不安の書【増補版】
Livro do Desassossego
発行:彩流社
著者:フェルナンド・ペソア
訳者:高橋 都彦


前情報なくタイトルと装丁で選んだ一冊ですが、これがまあ、今の空気感にぴったりそぐう一冊で、我ながら選書力の高さに苦笑。
情報によれば、ポルトガルの詩人・ペソア最大の傑作とされる『不安の書』の完訳であり、”待望の復刊!”とのこと。日記のようにも、創作のようにも、詩のようにも感じられる不定の断章で構成されています。

読みはじめてすぐ、「よくもここまで不安にかられ”られる”ものだ」と感心。日記のようではあるけれども、飽きもせず毎日ぼやき、つぶやき、うめき、世を呪う。……そういう断片が延々と続く(結構分厚く、600ページ超)わけで、早々に投げ出したくなりそうになったのだけど、そこはさすが詩人。漠然とした不安をつぶやくために操る言葉の数々は見事に多彩で、それがまた逆に呆れるというか……。
読めば読むほど訳者の根気とご苦労が思われ、高く尊敬の念を抱きます、マジで。

で、気付いたのですが、この本に正しい読み方があるとすれば、気が向いた時にパッと開いたページを”啓示”として受け取ることかも。「今日の星占い」的な感じで読む、「今日の不安」。そう思うといろいろな言葉(不安)との出会いが断然楽しくなる。

以下、2、3の短いフレーズを抜粋。

わたしは道徳を守りつつも善いことをしないが、わたしに善いことをしてくれとも要求しない。
(共感~!)

わたしの理想はすべてを小説で体験し、実生活で休息する。 
(これも共感。バーチャルに生きる幸せと閉塞)

支配するには感性に欠けている必要がある。
(例として挙げられているのは政治家、司令官のほか、美しい女性。。。こういうユーモアは、ペソアの武器のひとつだと思う)

今後もそのやりかたで、この分厚い一冊を、パンデミック収束までの羅針盤として活用していきたいと思います。どんな珠玉のぼやきに出会えるかしら、ワクワク。毒はやはり毒に効くらしい。(Ö)

2020-03-18

もっと知りたい浮世絵

ずいぶんと長くブログの更新をさぼって(苦笑)しまいましたが、
あをぐみが編集とエディトリアルデザインを担当した『もっと知りたい浮世』(東京美術刊)が発売中です。


これまでも浮世絵にまつわる本は、何度もデザインしてきました。でもよくよく思い出してみると、幕末や近代の版画家のものが多く「浮世絵」そのものを主題とした本を担当するのは、意外にも今回がはじめてでした。

知っていたようで知らなかったことも多く、デザインしながらあらためて学び直せて、あをぐみにとってもためになる一冊になりました。

今現在、美術館も臨時休館中のところも多く、美術ファンのひとりとしても心が痛みます。

本書にかぎらず今までデザインしてきた、そしてこれからもデザインしていく本たちが、紙面を通じて美術を楽しむことや、手にしただれかの心を明るくすることに一役担えたらさいわいです。(äwö)