2020-12-27

街を言葉にすること。「街歩きエッセイ講座」

「美しい景観に対する意識の高揚と、良好な景観形成に向けた市民のまちづくり活動の推進を図るため」(役所らしい文章ですなあ)に、松本市が年に1回開催している『景観賞』。そのスピンオフ企画としてはじまった「街歩きエッセイ講座」を、あをぐみÖが担当しています。

どんなことをするのかというと、まずは街歩き。2時間ほど市街地を歩いて好きな景色やまちなみを撮影し、その写真を添えたエッセイを書いて発表するわけです。景観賞への応募促進を目論んで例年は初夏に行っていたのですが、今年はコロナのため延期。中止も危ぶまれましたが、なんとか半年遅れの12月に実施できました。


いつもだと班にわかれ、それぞれ違うコースを歩いていましたが、今年は密にならない人数での開催ということもあり、参加者全員が同じコースをぶらぶら。クリスマスの雰囲気漂う通りから路地裏まで、松本城周辺をのんびり歩きました。

女鳥羽川の近くでマーケットが行われていて雰囲気を盛りあげます。朝で開催前でしたが、広場の真ん中にツリーがたてられ、華やぎと年末感たっぷり。街ゆく人もみんな笑顔。


午前中をかけて楽しく街を歩いたあと、午後は机に向かってエッセイをしたためます。

参加者同士、撮った写真を披露し合いながら何を書こうか思案。SNSなどで自分の言葉を書くことに慣れた人も多かったようですが、長文…しかもエッセイとなると別問題で、最初はみなさん頭を抱えています。題材を固めるまでのこの時間が一番長〜い。あれもいいなこれもいいなの迷いを経ていざ書き始めると、意外とあっという間だったりします。


毎年毎年、参加者のエッセイのレベルがぐんぐんあがっていて、今年もまるで短編小説のような読後感を残す佳作が誕生し、感激。あをぐみÖとしても負けてらんな〜いという気分になってしまいます。同じ道を歩いても、みんなそれぞれが違うことを想い、違う景色をそこに見ているのだなあと実感。住んでいる街の風景だからこそ、あらためて見直すといろいろな思いが胸に去来し、文章がひとりでに流れていくようでした。

この講座にはフェイスブックがあり、今回の作品もそこで公表されることになっています。アップの日時は担当のYさんの頑張り次第ですが、過去の講座のエッセイも読めるので、ぜひ訪れてみてください。

実はこのエッセイ講座、新市長の新体制による「しわけ」の候補になっているようなので、来年以降の開催は不明。何らかのカタチで続けていけるようにしたいなあとは思っています。(ö)

2020-12-20

GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ@すみだ北斎美術館

 日本といえば「フジヤマ・ゲイシャ」だった時代はとっくに終わり、今や「アニメ・マンガ」、その後に「スシ」といったところでしょうか……。で、そのマンガの変遷を、江戸時代の浮世絵版画からじっくりたっぷり見られるのが、この展覧会です。


以下、写真はすべて許可を得て撮影しています。

 期間中に2回の展示替えがあり、ここで紹介しているのはもう終わっちゃった前期のもの。今は中期展(〜1月3日)で、5日からは後期展。全部見れば、漫画の博士号がとれるんじゃないかっていうくらいの密度(総数約270点!)です。展示物の文字情報も多いだけに、隈なく見ていたらあっという間に時が過ぎ、脚はガタガタ腰はヒリヒリで疲労困憊セグンド、ふう。そのぶん漫画史をしっかり体感でき、大充実でした。

 改めて思ったのは、漫画はジャーナリズムであり世相の鏡だなあということ。新聞漫画がいい例ですが、単行本や週刊誌のストーリー漫画もやはり、今という時代を反映したメディアですもんね。

 江戸時代の諷刺表現である”戯画”。幕府の改革や動乱をテーマにしたもののなかには、辛辣に幕府批判をしているものもあり、思ったよりは言論が自由だったのかも(あ、でも河鍋暁斎とか投獄されてたか。。)。



 明治・大正時代の諷刺漫画雑誌には、意外な人が意外な画風で作品を寄せていたり。たとえば光線画で有名な小林清親に、キラキラした美しい版画世界とはまた違ったドギツイ皮肉な作品があって、思わず笑っちゃいました。

 北斎の美術館ということで、かの有名な『北斎漫画』も見られますが、この場合の”漫画”は、今でいう漫画とは意味合いがちょっと違い、「北斎が漫然とえがいたもの」という意味なんだそう。
最後にちょっとした雑学でした。(ö)

展覧会情報はこちら

会期:~2021年1月24日
休:月曜(1/11は開場)、12/29~1/1、1/12
観覧料:当日一般¥1,200ほか

2020-12-13

舟越 桂 私の中にある泉@渋谷区立松濤美術館

 一瞬で人心をつかんでしまう舟越さんの彫刻像。先ごろ渋谷で始まったこの展覧会では、どうやってその唯一無二性が育まれていったのかの手がかりが得られます。まだ学生の頃に手掛けた試作から新作までが時系列で見られるうえ、鑿を持つ前に何度も描くというドローイングや、書き留められたメモといった、作品の源泉に迫るような資料的展示が多々。芸術一家である舟越家のほかのメンバーによるデッサンなども、興味深いものでした。やはり人は一人で立っているわけではないし、ひとりでに自分に成っていくわけでもないのだと、しみじみ。

 大理石の目を入れる契機となった試作のマスクも興味深い一品。目をもつと、作品自身から”意思”みたいなものが発せられるようです。焦点はあっていないし、どこか虚な感じもする”目”。でも、入っているといないとでは段違いでした。


写真は、舟越さんのアトリエを再現した一角(以下すべて主催者の許可を得て撮影しています)。

 ところで彫刻像には、例えば夜、誰もいなくなった美術館で他の彫像と話し始めそうなコミュニケーション好きなものもあれば、孤高のオーラを発するものもありますが、舟越作品は後者。特にこの展覧会の第一会場に居る作品は、独り立ちどまり、思索する人々ばかりです。が、第一会場の終わりのあたりから2階の第二会場の作品は、どちらかというと「ものを語ること」を使命にしているのでは?と思うような雰囲気を纏っています。第1章で内を向いていた問いが、第二章で外に向かいはじめたか。

 代表作であるスフィンクスシリーズは、その良い例かと。「人間に謎をかけるスフィンクスは、謎をかけるくらい人間のことをよく見ている」というようなことを舟越さんが言っていますが、なるほどつまりその問いは、単なる質問ではなく問わずにはいられない根源的な謎であり、問うことで人を立ち止まらせ考え直させたいという、スフィンクスの断罪意識を含んだ重いものなのか。

 舟越作品には珍しく厳しい表情をした《戦争をみるスフィンクスⅡ》に対峙したとき、その愛ある重い問いを感じてぐっときました。こうした問いやメッセージを多分に含んでいるから、舟越作品は一貫して人間の姿をカタチにしつつ、「人ではない何か」と「強烈な人らしさ」を同時に感じさせるのだろうなあ。


こちらは2020年の新作《スフィンクスには何を問うか?》。

 と、ひととおり展覧会を見て、舟越さんをわかったような気でいたのですが、ひとり、そんなわたしのうわべの理解感を打ち破る作品が。それがこの人。


《森へ行く日》(1984年)

初期作品のひとつで、何気なく見てスルーしてしまうところだったのですが、この肩からの帯状の黒いものについて、「粘り気のある黒いものをつけたかったのでゴムを選んだ」というようなことを舟越さんがコメントしているのを読み、ガーンと衝撃。なぜねばねばした黒いものを、この人の肩につけたかったのか……。美術館を去り、松本へ戻る車窓の夜景を見ながらもまだ、ずっとそのことが頭から離れませんでした。(ö)

展覧会情報はこちら

会期:~2021年1/31
休:月曜(1/11は開館)、12/29~1/3、1/12 
観覧料:当日一般¥500ほか

2020-12-07

琳派と印象派@アーティゾン美術館

だいぶキャラの異なるスクール同士を組み合わせたなあと、興味津々で出かけた展覧会。時代をみても、琳派は宗達の時代を含めれば1600年前後からで、印象派はモネの《印象、日の出》が描かれたのが1873年と、2、300年近く違うし……。

(写真は以下、すべて主催者の許可を得て撮影しています)



で、やはり最初は違和感。浮世絵ほど線的ではないものの、平面的で装飾的な琳派と、題材は身近で、光で見え方の変わる様を捉えようとした印象派とが、どうにも同じ空間に納まらない気がしたのです。 

でも、この展覧会のキーワードが「都市文化」だと知ってからは(サブタイトルになってた…)眼鏡が変わったかのように見える世界が変わりました。なるほど、京都で興り江戸に続いた琳派と、パリで生まれた印象派は、同じ都市文化という土壌に咲く花なわけだ。限られた人しか享受できなかった琳派と、ギャラリーなどで衆目を驚かせ楽しませた印象派とを全く同じには論じられないものの、「大都市ならではの洗練された美意識の到達点(同展サイトより)」と考えると、相違さえ楽しく立ちあがってきます。


ところで、この展覧会は主に同館のコレクションで構成されていますが、所蔵品をどう斬るかって、その美術館(の学芸員)のセンスですねー。作品数に限りがあり、人気作ばかり出しても飽きられる……あまたの制約のもとでいかに面白い視点を与えられるか……なかなかの難問です。だからこそ琳派と印象派という一見相容れないものを並べ、鮮やかに見直させるのは編集の妙であり、あをぐみÖ的にも学ぶところ大でした。

そうそう、この展覧会で初お目見したアーティゾンの新所蔵品、尾形光琳の《孔雀立葵図屛風》(重要文化財)は MUST SEE!(ö)

展覧会情報はこちら

会期:~2021年1/24
休:月曜(1/11は開館)、12/28~1/4、1/12
観覧料:当日一般¥1,700ほか